カテーテルアブレーションについて

谷口医師

不整脈科部長 谷口 宏史

はじめに:

頻脈性不整脈の代表的な治療であるカテーテルアブレーション手術を当院でも実施しております。この手術は主には心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍症、頻発性心室期外収縮、心室頻拍症などの病気が対象となります。対象の疾患と診断された患者さんや不整脈に伴う動悸・息切れ症状等にてお困りの患者さんは当院外来にてカテーテルアブレーションを含めた治療法などご相談させて頂ければと思います。

心房細動とは:

治療すべき中で最も多い不整脈である心房細動について説明させて頂きます。

心臓は心臓に戻ってくる血液を貯めるプールとなる心房と血液を心臓の外に送り出すポンプ機能を有する心室が交互に働くことで血液を循環させている臓器ですが、心房細動はその心房が非常に速く興奮(350—400回/分)することにより生じます。その速い興奮は不規則にしか心室に伝わらず、また、心房と心室の動きもうまく連携が取れなくなるため、血液の循環がうまくいかず動悸・息切れの症状を自覚するようになります(患者さんによって症状にはかなり差があります)。

また、特に心房は痙攣したような状態でほとんど収縮できなくなるため血液の流れが悪くなり、心房内に血液がうっ滞するようになり心房内に血の塊(血栓)ができてしまうことがあります。これが心臓から剥がれ出て血管に詰まるといろいろな臓器で梗塞を起こしてしまいます。特に、脳の比較的根元に近い血管に詰まると後遺症を残すノックアウト型と言われる大きな脳梗塞を起こすことがあります。

そのため、心房細動の患者さんは、心房細動自体と脳梗塞予防の2本立ての治療が必要となります。

また、心房細動は加齢、高血圧、過剰なストレス(精神的、飲酒等)などにより、心筋が傷ついて(変性して)起こるようになってくる疾患でもあり総合的な管理が必要となります。

カテーテルアブレーションとは:

カテーテルアブレーションは、電極カテーテルという先端に金属のついたカテーテルを用いた不整脈の治療のことです。

心臓の内部で治療用の電極カテーテルと患者さんの背中に貼った対極板との間で高周波という特殊なエネルギーで熱を発生させて、心筋を選択的に熱焼灼することで頻脈、不整脈の原因となる異常な興奮を発する部位や異常な興奮が旋回する回路・伝導路を治療する方法のことを言います。

ablation1

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療

心房細動は、主には、肺から左心房に帰ってくる血管である肺静脈や左心房との接合部で異常な興奮が生じ、それをきっかけとして心房細動が起こることがわかってきています(図1)。

その肺静脈周囲(心房との境界部位)をアブレーションにより焼灼することで、異常な興奮が左心房に伝わらなくなり(肺静脈電気的隔離術)、また、その周囲の不均一な伝導を治療することにより多くの患者さんの心房細動発作を抑制できるようになりました(図2-1、2-2)。

また、他の不整脈(心房粗動、発作性上室性頻拍症、頻発性心室期外収縮、心室頻拍等)においても、不整脈回路の治療、異常興奮部位の治療を行うことで根治的治療が可能となっています。

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図1:肺静脈期外収縮の連発が心房細動を誘発

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図2-1:CT画像(左心房と左右肺静脈)

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図2-2:茶色のポイントが肺静脈周囲のカテーテルアブレーションによる焼灼巣

アブレーションについてよくある質問 Q&A

手術時間はどのくらいですか?

発作性心房細動の場合:2~3時間

持続性心房細動の場合:3~4時間

発作性上室性頻拍症・心室期外収縮等の場合:1~2時間

心房細動の場合は静脈麻酔下で行うため導入時間等も含まれます。

発作性上室性頻拍症・心室期外収縮は基本的に局所麻酔のみとなります。

また、手術時間はおよその目安です。患者さんの状況により時間に差があります。

手術中痛みはありますか?

心房細動の治療では鎮痛剤を使用し静脈麻酔下で行うので手術中の痛みはありません。

発作性上室性頻拍症・心室期外収縮の治療時は、通電中(治療中)に治療部位によっては胸部違和感を感じることはありますが、強い痛みを伴うことは少ないです。ただ、症状が強い場合には鎮痛剤を使用して治療することもあります。

入院期間はどのくらいですか?また、手術後すぐに退院できますか?

心房細動の場合は3泊4日です。

入院当日:経食道超音波検査等の諸検査

2日目:アブレーション手術

3日目:心電図、レントゲン、創部(手術でできた傷)等の確認

4日目:退院

発作性上室性頻拍症・心室期外収縮等は2泊3日です。

入院当日:心電図等の諸検査

2日目:アブレーション手術

3日目:退院

これらは一般的な患者さんの入院の流れです。患者さんの病状や全身状態により入院期間、検査等は変更があります。

手術・入院費用はどのくらいですか?

患者さんによって金額は異なりますが、3割負担の方で窓口の負担が30~50万円前後です。ただし、ほとんどの方が限度額適用認定もしくは高額療養費制度を利用して、実際のお支払いは上記金額よりも少額となっています。

<例>70歳以上・年収約370万円~770万円(3割負担)

窓口の負担(3割)が30万円かかる場合、212,570円を高額療養費として支給し、実際の自己負担額は87,430円となります。

※自己負担額は年齢や収入によって異なりますので、ご自分の自己負担額をお知りになりたい方は下記までお問い合わせください。

健康保険組合、全国健康保険協会、共済組合、国民健康保険組合にご加入の方:ご加入の医療保険者まで

国民健康保険にご加入の方:お住まいの市区町村の担当窓口まで

後期高齢者医療制度の方:各都道府県の後期高齢者医療広域連合、お住まいの市区町村の担当窓口まで

高額療養費制度の詳しい内容は、厚生労働省のホームページでも確認できます。

手術後普通の生活は送れますか?生活に支障をきたすことはありますか?

通常の日常生活は問題なく、生活には特に支障はありません。ただ、穿刺部の創傷、手術後の炎症等があるので1~2週間前後は激しい運動や強い負荷のかかる動作は避けてください。

一度手術すれば必ず治りますか?再発することはありますか?

発作性心房細動の場合:初回手術で75~80%、2回目で85~90%の治癒率で、約2割の方が2回の手術を必要とします。また、同じ発作性心房細動であっても患者さんの病状、状態により異なります。

持続性心房細動の場合:持続期間・病状により大きく異なりますが50%程度は複数回の治療を要します。持続期間が5年以内で、心房拡大が無い状態であれば約80%で洞調律維持(正常な脈に安定すること)が可能となります。

心室期外収縮の場合:手術中に出現している心室期外収縮の発生場所を同定するため手術中にある程度心室性期外収縮が出ていないと、場所を同定できず治療成績は下がります。手術成功率は心室性期外収縮の出現場所により異なりますが、一般的な場所(心臓の内側)であれば、90%前後の治癒率です。しかし、起源が心臓の外側にある場合は、治療成功率は50~80%になります。

発作性上室性頻拍の場合:97%で根治が可能となります。

たまに胸がドキドキしたり苦しかったりするのですが、検査を受けても異常が見つかりません。アブレーションをすれば治りますか?
ドキドキする症状(いわゆる動悸症状)は必ずしも不整脈が原因とは限りません。不整脈(脈の乱れ)が原因での症状であることはもちろんありますが、ホルモン異常や心因性、脱水であることもありますし、全身疾患に伴う頻脈もあります。やはり症状時の心電図や器質的疾患が無いか等含めて診断をしなければ判断できません。症状の原因が頻脈性不整脈である場合はアブレーションによる治療が可能となります。
アブレーションの適応になるのはどのような症状ですか?
症状ではアブレーションの適応は決定できません。症状の原因が心房細動、上室性頻拍、心室期外収縮、心室頻拍等の不整脈に伴うものであればアブレーションの適応となります。
他の病院で不整脈と言われました。アブレーション手術をした方がいいですか?
不整脈は正常な脈(洞調律と呼ばれます)以外の脈の乱れる状態の総称で、一概に不整脈と言っても色々な種類があり、治療の必要のないものもあります。また、同じ不整脈であっても頻度や持続時間等でも治療方針は変わってきます。まずはしっかりとその病名(不整脈の種類)を主治医の先生に確認し相談して頂くと良いと思います。
判断が難しい場合は当院で検査等させて頂きますのでご相談ください。
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